カテゴリ:2016年8月


25日 8月 2016
8月19日~21日に東京・有明で開催された経絡治療学会の夏期大学に参加しました。3日間にわたり「学術」を学びましたが、今回は特に「術」から得るものが多かったです。最近、目の調子を悪くしたこともあり、積極的に実技モデルになりました。3日間で3人の先生から治療を受けたのですが、経絡治療といっても三者ともに全く違う治療スタイルであることや、それぞれの先生に持ち味があり、それがその先生の魅力となっていることがよくわかりました。これは実際に自分が鍼を受けてみて初めて感じ得ることで、側で見ているだけでは、なかなか気がつきません。誤魔化しや手抜きがあればバレてしまう、真剣勝負の世界です。そして首藤先生が言われる「鍼は人なり」という言葉が、とても重くて厳しいものだということを再認識しました。自分自身はどうなのか、患者に対して慢心はないか、自省して臨床に向かおうと思います。このことに気付けたことが一番の収穫でした。 私が治療を受けたのは、田畑幸子先生、市川みつ代先生、今野正弘先生です。現病歴は左目の痛み・充血で、眼科医から強膜炎の恐れがあると言われたことを伝えました。田畑先生と市川先生は肝虚証として、今野先生は肝虚証から脈の変化を診て脾虚証で本治法を行いました。ただし、田畑先生は肝脾腎の3経を使い、市川先生も色々な経や穴を使用したので、どこまでが本治法でどこからが標治法なのかはよく分かりませんでした。腹部の硬結や圧痛などの反応がどう処理されたかを確認しつつ治療を進めるのは実戦的で、ベテランの臨床家ならではの迫力がありました。また鍼数が多いことや、置鍼が中心であることも私にとっては新鮮な経験でした。3先生とも鍼は浅刺ですが、鍼を打たれた感覚は違います。 田畑先生の刺鍼は柔らかく無痛で、手技をかけたときにジワっと響きを感じました。一言でいえば優しさが伝わる鍼という感じです。最後まで残った腹部の硬結を雀啄して、ゆるまったのを確認し、「ああ、取れて良かった」と呟かれたときも、その人柄が伝わってきました。こういう先生から治療を受けていれば、たとえ難しい疾患であっても、自然と気のめぐりが良くなって治ってしまうのではないかと思います。また、頚まわりをよく触れてゆるめることや、心包経を触ってから脈診をしていたのが印象に残りました。それから、研修科には臨床歴何十年のベテラン鍼灸師も参加しています。モデルになると色々な人から体を触られたり、脈を診られたりするわけですが、周りの人と比べて明らかに「良い手」を持っている先生がいるのです。これも、実際にモデルになってみないと分からないことです。今回は観察力や触診力、手の温かさなどに長けた先生がいて、その方に指でツボを触れられただけで効いてしまうのです。これは驚きの経験でした。こんなすごい人が、なんで教える立場にいないのかと不思議でしたが、とにかくそういう人達に出会えるのも、夏期大の魅力だと思います。 市川先生は豪快で実直で愛情を感じる鍼でした。特に、尖端が鈍角になっている三稜鍼を使った手技はそれまで経験したことないほどの衝撃がありました。ドラマーでいえばボンゾのようなパワフルさでした。私の前のモデルだった青年が身をよじって痛がっているのを見て、少々引いたのも事実ですが、「怖くなった?どうする?」と市川先生からニコニコ顔で言われると、なぜか妙に安心しました。そして実際に刺鍼を受けてみると、かなり痛いけども不快ではなく、我慢の限界の一歩手前ぐらいの刺激量によって自律神経がリセットされるだろうという予感がありました。部位によって少し出血はありました。また、まぶたをひっくり返して鍼でコシコシする手技も初体験でした。そしてオリジナルの点眼水?をして目をパチパチしたあと、2分くらい涙が大量に出続けたのにも驚きました。足裏にもたっぷり灸をしていただきました。そして「上焦にある熱を下すためにも、足裏に毎日お灸をしなさい」と言われました。また、背部兪穴は胃兪のあたり?から腸骨稜まで4つの高さに分けて圧痛を調べ、上部(1番)なら食べ過ぎや飲み過ぎ、下部(4番)なら婦人科系の反応が出やすいとのことでした。実技の時間とはいえ、汗をかきながら全身全霊で治療をする市川先生の姿に感動しました。治療から4日経った今も、下肢には脾経や膀胱経上に三稜鍼の跡が残っていて、取穴の勉強になります。良い土産をもらいました。 今野先生の鍼はとても浅いですが、しっかり刺鍼されているという感覚がありました。そしてどんどん身体がゆるんでいくのがわかりました。全科共通実技だったので会場はにぎやかなのですが、とにかく眠くなって仕方がありません。鍼が全身に効いているという実感がありました。勉強なので頑張って起きていましたが、途中からどこに鍼を打たれたか全く覚えていません。目は開けていたものの、脳は眠っていたのかもしれないです。治療が終わる頃には背部の硬さも取れて、とてもスッキリしました。そして、日頃から左懸顱付近の硬結に点灸をすることや、脾をよく補うようにと指導していただきました。先生には伝えなかったのですが、夏期大の期間中、朝と昼はプロテインとサラダ程度しか摂取していなかったために脾虚になっていたことも考えられます。目だから肝虚ではなく、今野先生は脈や体表観察から脾虚証としたのでしょう。あくまでも「総合的に判断して証を決めることが大切」だと改めて思いました。 これまで経絡治療はひとつのジャンルだと考えていましたが、名称やスタイルにはさほど意味はなく、あくまでも先達の教えを吸収しつつ自分の技を構築するのが臨床家の共通した姿なのだと感じました。
06日 8月 2016
本日、「第30回弦躋塾セミナー」の第3巻に英語字幕と日本語字幕を追加しました。この企画はアメリカの翻訳家スティーブン・ブラウン氏との共同作業により完成しました。今年の4月にブラウン氏から、「首藤先生の動画に英語字幕をつけられないか」とメールがあり、これまで撮影した中で最も見やすいと思われる第30回セミナーから首藤先生の講義と実技を選びました。一連の作業は、まず私が動画の音声から日本語の文字起こしをして、それをブラウン氏が英語に翻訳し、再び私がその英文を動画の音声に同期させて貼り付けるということを行いました。また、せっかく日本語も作ったので、これも字幕にしました。 英語字幕によって、海外の鍼灸師や治療家の方々に首藤先生の技術をより理解していただければと思っています。そして無償で翻訳作業をして下さったブラウン氏に感謝します。ありがとうございました。